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(ご報告)「ギャラリー蚕室でアート×哲学対話4」杉山啓子のアート作品からもやもやと出てくる問いをみんなで対話してみる

「ギャラリー蚕室でアート×哲学対話4」を開催致しました。
開催した日;2019年 2月24日(日)午後18:45~21:00

<テーマとなった企画展>
杉山啓子個展 Paper Field -かみのはら- 
https://san-shitsu.com/archives/3298/

<ファシリテーターのこばやしゆかさんからのレポート転載>

Paper Field-かみのはらーを開催中のギャラリー蚕室は、和紙にエッチング(銅版画)された花々が壁一面に咲き乱れている。ギャラリー蚕室での哲学対話も第4回目である。今回は杉山啓子さんへのインタビューを最初に行った後、問いを出して対話するという流れとなった。

作家の杉山啓子さんはイギリス留学中、ホームステイ先の部屋の壁紙に注目した時から壁を意識するようになった。また、動けない花にはシンパシーを常に感じ、動けない花を動かしてあげたいという思いが重なり、壁と花という一連の作品群が生まれたそうである。

以前、杉山さんは花をもっと大きく書いていた。それは見ているようで見てはいない花の細部をもっと意識したいという思いと同時に、もっと尖っている自分を全面に出そうとしていたこと、自分の大柄な体には小花は相応しくないといった囚われ、思い込みもあったそうだ。今回の個展では囚われから自分を解放し、自分の中にある乙女の部分を「かわいいものはかわいい、いいじゃないそれで」との思いを込め、等身大の自分を解き放ったそうである。また、杉山さんは最も美しい時の花よりも、咲く前のつぼみや花びらがしおれ始め、花びらが数枚落ちた姿に惹かれるそうである。「一番美しい状態の時は放っておいても美しいのだから、私はそうでない花の美しさを描きたい」。

杉山さんの話の後で出された問いは以下のようなものであった。
・縛り(決めつけ、ルール)とは何か?
・かわいさとは何か?
・乙女を解放するとは何か?
・壁の花の気持ちとは?
・可愛さや乙女心はなぜ恥ずかしく、その気持ちを認めたがらないのか?
・なぜ人は価値観を押し付け合うのか?
・ふつうとは何か?
・自分らしさをどうやって育てるのか?
・世の価値観からどのようにすれば解放されるのか?

 決まった問いは「世の価値観からどのようにすれば解放されるのか?」。最初、対話の中でしばしば語られた体験は、母親から押し付けられた価値観に対して抵抗が出来なかった子供時代の話であった。友人と同じものが欲しいの母の趣味に合わず許されない、女の子らしい恰好がしたくても母親の好みに合わずボーイッシュである事を求められた、逆に女の子らしい姿を求められたなど。同様に髪型、ランドセルの色、ランドセルの素材、洋服、習い事など親の価値観を押し付けられた過去を持つ参加者の言葉が続いた。

次に、対話は押し付けられたとは言え良い部分もあったという逆の側面に対する指摘、なぜ人は価値観を押し付け合うのか、自分も自分の子供に対して押し付けてしまっていたという気づき、そのような対話の流れを通って、一体どのようにして自分は親から与えられた価値観、世間的な価値観から解放され得るのかという選ばれた問いに迫ることになった。

最後に、価値観を押し付けられた子供時代に比べ、大人になるにしたがって囚われから解放されつつある、自分の囚われに気付くことで他者への価値観の押し付けがなくなる、多くの価値観に触れることが自分を解放することが出来るなど、参加者の歩んだ人生の中で解放された経験が語られた。さらに、これから自他共に認めあう生き方をしたい、可愛さへの憧れを封じ込めてきた自分を解き放ちたい、男性的であることやクールであることが良いとの思い込みがあった、本当は可愛いと言って欲しかった自分がいる、もっと良い部分を評価し合いたいなど、未来に向かう意思表示の言葉が続いた。

 対話が終わってから気づかされることの一つは、内的な自分本来の在り様と時代や文化が求める役割(ジェンダー)や性表現をどのように統合するのかという課題を対話に参加した各自が抱えて生きているという実態である。同時に、性役割(ジェンダー)や生物学的な意味での性(セックス)はそもそも多様であることがようやく認められつつある時代に入って、各自が自分の中にもある偏見や固執、思い込みや囚われから解放されて、自他共に尊重し合える世界を望んでいること、それに向かって日々新しい自己を築こうとしていることなどを強く感じた。

 
 参加された皆さんへ、皆さんと対話出来たことに心から感謝しています。一緒に言葉を紡いだ時間が私の生きる力となりました。またいつか対話の機会を持てることを楽しみにしています。


■ファシリテーター:小林由加(高校・大学非常勤講師 / 好きなこと:旅と本と酒)

<哲学対話とは?>
哲学対話は「じっくり問いを考え、みんなで対話しながら深める」こと。ここで言う哲学とは、哲学者の述べた言葉を学ぶことではなく、問いを深める態度のこと。ふだんはあまり考えないことをみんなで対話を通して考えることで、新しい気づきに出会う喜びがあります。

2019-02-25 | Posted in ワークショップComments Closed